セニョール マイク
曇天ばかりのリマをあとにして、セスナ機で南へ400キロ。
海岸砂漠地帯にあるナスカに着く。ここにはあの有名な地上絵がある。セスナ機を降りたとき真っ先に感じたのは、強い日差しと真っ青な空だった。リマとは対照的な気候である。 ここナスカは綿花の栽培で成り立つ小さな町に過ぎない。ほぼ町の中央を、パンアメリカンハイウエーが突き抜けているだけで活気のある町とはいえない。ところがこの町には小さいとはいえ航空会社がある。エアロコンドルというセスナ機を持つ航空会社である。これはひとえにこの町がナスカの地上絵で有名だからだ。
「昼食はフライトの後にしましょう。」と言ったのは、ナスカで私達を待ちかまえてくれたピカソである。ピカソはアフリカ出身だといっていたがほんとうかうそかはよくわからない。私達は実はかなりの空腹で、先に昼食をとりたかった。だがそのことをピカソに言うと、
「よしたほうがいい。」
そうきっぱりと言われてしまった。ピカソは片言の英語しかしゃべれず、あとはスペイン語しか通じない。理由が今ひとつわからない。 なんだか納得しきれないままに、ジュースを一杯だけ飲んで、セスナで地上絵の遊覧飛行をすることになった。 いざ飛行機が飛び立とうと飛行場を滑走しはじめて改めて気が付いたのだが、なんとただの石ころだらけの飛行場。飛行機はけたたましい音と土ぼこりをあげて飛び上がったわけである。機内の中も飛行場に劣らず凄い。シートベルトは、締めようとしても締まらない。飛行機のメーターもなぜか動かないものがさくさんある。
(だいじょうぶなのだろうか)
パイロットの名前はマイク。名前は英語風だが地元出身である。飛行機からナスカを見おろすとほんとうに水のない土地だなあと思う。ペルーの砂漠はよくいう砂の砂漠ではない。土と岩の砕けたものであって水さえ引いてくれば豊かな緑の土地となる。 マイクは地上絵が見えてくると前もって教えてくれる。まず地上絵がよく見えるように飛行機を傾け、ある程度地上に近づきつつ、いきなり後ろを向きにっと笑い片手を離し地上絵を指さして、
「あれがさる、はちどり、コンドル、ウズマキ、」
さらにマイクはもう一度逆旋回して反対側に座っている人にも同じことをしてくれるのである。とても親切なのだが、なにしろスリルを超えて恐怖のフライトであった。 このマイクの飛行で私達はなるほどと納得した。ピカソが昼食を後にしようといったわけを。ナスカの名物にぜひ、あのマイクの「にっと笑った顔」を入れておきたいと思った。