1985.1.1

空想科学小説


誰も登ってこない。

下りてゆく者ばかりの中をなお

登っていくと、「三日も待ったが、雨

ばかり、晴れるといいね」男がひとり悲しく

下りていった。10メートル先も見えぬ五里霧中。

雨はザアザア横殴り。何処がここだか路は切れ切れ。

赤い布切れがひらひらと目印の竹竿を数え数え、腹に

不安が充満してきた時、文明がけたたましくやってきた。

元気いっぱい発電機。山小屋は近い。どどっと駆け込み、

裸になって服を乾かすと、「雪渓で50メートルも転落し

てね、でも岩にすがりついて命拾いをしました」男が

ひとり生き返ってきたように話しかけた。時に夕暮

れ、数日来の雨も霧も晴れ、底なしの空が何食

わぬ貌をして広がっている。岩に命を

拾われた男さえいるのだ。夏の

夢みたいな話。


もどる